静岡市医師会 JI2ZLH


災害対策とアマチュア無線   大村 純(JO2DBR)

 1998年4月以来、静岡市医師会における災害対策を担当しているが、災害時には、アマチュア無線による非常通信を考えている。今回、当医師会で進めてきた災害対策をご紹介・ご説明させていただくので、会員の皆様から、ご意見やアドバイスをいただければ幸いである。

   0 アマチュア無線の利点

 アマチュア無線に着目した理由は、いまさら説明するまでもないが、災害時、ライフラインが断たれても唯一、使用可能な通信手段だからである。又、災害対策本部から会員に情報を伝達する際は会員が傍受していれば、電話と異なり、一度で済ませられる利点もある。

   1 組織作り

 アマチュア無線を非常通信に使用するとしても、医師会の関係者がまとまっていないと、組織的な活動は不可能である。そこで、1998年7月に、JA2BIV杉浦浩策先生にもご参加をいただいて、医師会員・家族から構成される「静岡市医師会アマチュア無線同好会」を設立した。次いで、1999年3月に、災害対策本部で基地局として非常運用することを想定して、「静岡市医師会ハムクラブ JI2ZLH」を開局した。

   2 機器の選定

 医師会災害対策本部は、医師会館ではなく、市役所に設置される予定なので、災害時には、C5900を市役所に持ち込み、屋上にモービル用アンテナを設営して運用することにし、被災地を移動しての情報収集用などにハンディ機VX−5を選定した。いずれも、50・144・430MHzの3バンド機であることが大きな理由である。機器の購入費用は、医師会予算や医師会からの同好会への補助金に加えて、後述する養成課程講習会の実施によりJARDから医師会に支払われる「前渡し経費」も充てた。さて、災害現場では、使用するリグをなるべく共通化すべきである、との考えから、C5900とVX−5の2機種は講習会受講者にも勧めている。  いざ交信、というシーンでは日頃使い慣れている機種が有利なのは明白であるし、皆が共通の機器を所有していれば、バッテリーが消耗しても誰かのものと交換して継続使用できるし、故障時にはパーツの流用も可能である。それにしても、日本のメーカーの規格は、何故、統一されないのであろう。ハンディ機では、外部電源端子の形状だけで数種類はあるし、マイク端子も形状から信号線の配列まで個性に富んだもの(?)である。危機管理意識の無さか、メーカーのメンツや思惑などというケツの穴の狭さか、いずれにせよ情けないものである。     

   3 非常運用マニュアルの作成

 医師会災害対策本部が地域と交信する場合、その内容は「道路が損壊」とか「橋が落ちている」というような単純なものではなく、「外科医師が何名いて、搬送を要する患者は何名いる、必要な資材は云々」といった多項目であり、内容も医療関連のものとなる。従って、無線ボランティアがズブの素人だと間違いやすいだけでなく、意味が分からない恐れもある。それ故に無線ボランティアが引き受けたがらない場合も十分想定されるので、非常運用マニュアルを作成し、各拠点に配置し、同好会員や協力者にも配布した。詳しい内容は省略するが、医師会災害対策本部が周波数を確保する際に空き周波数をチェックする手順が判っていれば、地域局も同じ手順により対策本部が使用している周波数を探すであろうし、毎正時に定時連絡を行う旨取り決めておけば地域局は確実に傍受してくれるであろう。又、マニュアルにより報告の手順を決めておくことは、報告の効率を良くするだけでなく、決められた手順以外による報告は信憑性がないと判断でき、いたずら(ガセネタ)対策にもなる。とは言え、無線ボランティア頼りにはできない難しさがあり、特殊性を理解している医師・医療関係者のような専門職の有資格者を増やさねばならないと常々考えている。

   4 パケット通信の導入

 無線によるデータ転送が可能、情報が画面などに残せる、といったメリットに加え、TNCの掲示板機能は、情報の収集や伝達を、接続したパソコンなどの機器を操作せずとも自動的に行うため対応スタッフが不要で効率が良い、などの理由からパケット通信も導入した。ただし、これは相手局にもパソコン・TNCといった設備が必要である点が難点である。蛇足ながら、フォーン・パッチについては、市販されている機種が少ないという問題もあるが、現在のところ有効な利用法が浮かんでこない。

   5 非常通信訓練の実施

 月に1回、非常通信訓練を12:45〜13:30で行うようにしているが、医師会での新規免許取得者のアクティビティー(開局率、訓練参加者数など)という点から評価した災害対策への関心は今ひとつであり、今後の課題である。

   6 免許取得希望者への対応

 年に1回、国家試験免除で4アマが取得できる養成課程講習会を医師会館で実施して、会員の免許取得の便宜を図るとともに、一般の方にも受講してもらっている。「医師会としての災害対策」を前面に出すことで、市に広報への掲載を依頼したり、公民館に掲示を依頼できるので、応募者を集めるのにも有利となっている。 講習会は、医師会職員が事務代行職員となって受け付け事務を行う方式(事務代行方式)で実施し、管理責任者は私で講師も外部団体に依頼した者ではないというようにして、講習会自体の運営も医師会が主導権を持てるようにした。このため、講義の合間や昼休みを活かして、災害時における市の救護体制や医師会のアマチュア無線による連絡体制の説明、非常通信への協力依頼などをパンフレットにして配ったり、各種のビデオを上映して災害時の救護に対する啓蒙を行っている。  1999年の第1回目は、JA2BIV杉浦先生に無理を言って、講師研修を受けてもらい、法規の講師をお願いしたことを特記しておきたい。なお、養成課程講習会を実施する手続きや管理責任者の業務手順は、分かりやすく整理してあるので、うちの医師会でも開催してみたいという先生方には、ご連絡下されば、お送りする。事務代行方式の場合、受講者数に応じて、最高21万円の「前渡し経費」が入るのも魅力である。

   7 災害時優先電話について

 NTTでは、災害時、緊急性・重要性の高い通信を確保するため、一般の加入電話に対して発信規制を掛けることになっているが、この規制に掛からない加入電話を災害時優先電話という。我々の医療機関でも、申し出により、加入電話回線の最大1割(10本未満は1本)まで、通常回線・ISDN回線のどちらでも、災害時優先電話に指定してもらえる。災害時優先電話は、電話回線や交換施設などが機能していれば、発災直後からでも使用できるとのことで、受話器を取って発信音が聞こえれば、使用可能と判断して良い。ただし、災害時優先電話が使用できる状態でも、当該電話回線に接続している構内電話やターミナルアダプタなどの機器が停電や損傷により動作しなくなると、通話できないので、各自、これらの機器のバックアップ対策が必要である。医師会の場合、事務局と各会員の災害時優先電話により、災害時の通信手段は一応確保できると考えられる。しかし、医師会の回線1本で全会員に対応することはできないので、インターネットにより、医師会のホームページなどを利用すると、使い勝手が良くなるであろう。又、インターネットとの接続に際しては、災害時は県内や近隣の接続ポイントが使用不能の可能性もあり、遠隔地の接続ポイントを指定すべきである。例えば、当医師会では、非常持ち出し用ノートパソコン3台に宗像市(福岡県)を接続ポイントとして設定してあり、市役所に設置される臨時電話回線を使用して、宗像市経由でインターネットにアクセスする予定である。しかし、災害時優先電話といえども、回線や交換施設が機能していなければ、使用できないわけであり、この点で、アマチュア無線の利点は何ら揺らぐものではなく、災害時優先電話があればアマチュア無線は不要、ということではない。

   8 必要機器や物品の配置

 災害対策活動に必要な機器や物品は、会員が「身一つで出動」しても活動できるように、予め準備し、配置しておく必要がある。そこで、医師会災害対策本部を設置する予定の市役所には、アマチュア無線機やターミナルアダプタなどの通信機器を預けてある。一方、医師会館にも同じセットを備えてあり、これらは非常通信訓練などに使用しているが、今年から通信機器の接続訓練も導入するつもりである。又、事務用品や災害対策マニュアルなどを入れた災害対策セットを作成して、市役所や医療救護所となる各市立小学校に配置したが、これらに必要な物品の調達には100円ショップが大いに役立ったことを付け加えておきたい。

   9 地域住民の啓蒙、関連団体との連携

 震災時における現場の混乱を減らすためには、地域住民に災害時医療の特殊性を理解してもらうことが不可欠と考え、昨年11月に市の補助を得てトリアージ訓練を行い、町内会の防災組織に見学してもらった。この時には、静岡県看護協会や災害時の救援活動を目的としたバイクのボランティア組織(静岡RB)にもご協力をいただいたが、両団体とも、今後、住民啓蒙のための企画に協力して下さる意向である。なお、静岡RBには、アマチュア無線のできるメンバーも数多くおり、医師会は、災害時における地域の情報収集や情報伝達に関する覚え書きを交わして協力を依頼している。  この2月には、こちらの災害対策が整ったので、歯科医師会や薬剤師会の災害対策委員の方々を医師会館にお呼びして、市の関係者と共に、各々の災害対策の概要、今後の協力などについて懇談したところである。又、医師会のホームページには災害対策に関する説明を掲載してもらい、災害関連の講演会やトリアージ訓練の様子のビデオを医師会員や住民に無料で貸し出す旨も案内している。

   10 今後の課題など

 JI2ZLHは、当初9名の構成員が現在30名以上になり、無線機器もそろったところであるが、非常通信訓練のところでも触れたように、各メンバーの関心は今一つである。今後はJI2ZLHとしてのコンテスト参加や野外運用を行って、私を含めて、メンバーの交信練習を積まねばならない、と考えている。災害対策自体に対しても、医師会員の関心や意識は低目で、これらを如何に高揚させるかが、困難ではあるが最も重大な課題である。ボーイスカウト・ガールスカウトなどの災害時に活動すると思われる外部団体との話し合いも必要であるが、今年は、これらの団体に養成課程講習会の案内を送ったので、これをキッカケにコンタクトを取ろうと思っている。

 1999年のMARS総会では、非常通信の講演を拝聴させていただいたが、情報伝達の重要性やアマチュア無線の有効性を改めて確認でき、いたずら対策の話など大いに参考になった。又、その後の懇親会ではJARLの原昌三会長と並んで写真を撮る機会を得たが、これを静岡では「お宝写真」として、アマ無線の会などで見せびらかしている。MARSの先生方には通用しそうもないが、私の顔写真の自己紹介を兼ねて、今回添付させていただいた。さて、杉浦先生のご紹介でMARS会員となったものの、局免が50・144・430MHzだけのため、未だにMDネットに参加できないことや長々駄文を弄したことをお詫びして終わりにしたい。
 

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